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第9章 堕天使にすら助けを求める者達は偽りの楽園で


「全弾防がれただと?」
「はい。第3波以降は防空システムが起動したため、撃墜されました。
 第1波、第2波は、原因不明のエネルギーにより撃墜された、との報
告ですが」
「該当するエネルギー反応は確認されているか?」
「はい。第3新東京市の大深度地下……ターミナル・ドグマに該当する
と思われる地点で、現在も強力なエネルギー反応が検出されています。
エネルギー量は……10トン分の質量と同等……」
「馬鹿な……地球など吹き飛ぶぞ、それだけのエネルギー量」
「しかし、そこにそれがある事は事実です」


 出鱈目だな。
 報告を受けたシンジはボソリと呟いた。
 ターミナルドグマからちょうどアダムの質量と同等のエネルギーが検
出されている。
 しかも、そのかつて人類が手にした事の無い強大なエネルギーは完全
にコントロールされて、エネルギー状態のままでターミナルドグマに存
在し続けている。
 常識では考えられない事だ。
「きっとアベルでしょうね。……彼の力が解放された、それだけの事よ」
 いつもならもっと理論的な説明をするであろうリツコは、それだけ言
ってこの奇妙な事件の原因解明をそれ以上行なわなかった。
「彼の遺伝子はまさしく使徒と同様だった。その彼が、力の源を得て使
徒と同様の力を持つに至った。それ以上説明できないわ。それだって間
違ってるかもしれない。ただ、エネルギーがあって、それ以外何も検出
できないのだからね」
 釈然としなかったが、実際のところ現況ではその説明を受け入れるほ
かなかった。
 様々な経路を利用して送られてくる情報によると、救世府は国連本部
を占拠、同時に世界中の放送通信網の80%を制圧した後、その大部分
を破壊した。
 僅かなネットワークと、救世府によって完全に統括された情報。その
中では国連は腐敗しきった集団として描かれ、また人類は滅びの時を間
近に迎えることとなるというプロパガンダがしきりに行なわれている。
 そして救世府の説く神の道を信じるもののみが救われるであろうとも。
 冗談ではない。
 S2機関、多数のE兵器、一般には知られていないN2兵器。それら
を駆使すれば神の怒りなど容易に作り出せるではないか。
 奴らは、神になろうというのか。
「もう僕達の力ではただ抗うことしかできない。反撃の糸口を待って耐
え忍ぶことしか」
 誰もいない司令室の沈黙の中、シンジはふと目を壁の窓に見えるスク
リーンに向けた。
 ポジトロンライフル装備での狙撃体勢を解除し、ゆっくりと収容され
て行くエヴァ3機。子供達の駆るそれが、今後いついかなる悲劇を迎え
るかは神ならぬ身のシンジにはわからない。
 力の無い自分が悔しかった。
 アベルはどうなったのだろう?
 このまま戦っても余計な死者を増やすだけでは?
 エヴァを手にしたときにもう人類は滅びを迎えるべきだったのでは?
 たびたび渦巻くそんな思考にはもう慣れっこだった。
 それでも罪の意識は消えはしないし、己を責める気持ちがなくなるわ
けではない。
 ただ、やらねばならないことは見えていた。
 だから、どんな疑問にも負けずにシンジは自分の道を進む事を変えよ
うとは思わなかった。


 もう私にできる仕事は残っていない。
 救世府は完全に惣流・アスカ・ラングレーの本職を潰してくれた。
 世界中飛び回って、奴らに仕込まれた諜報技術で奴らの首を絞め続け
ていた彼女は、これ以上動き回る事が出来なくなっている。
 もうあまりシンジの役に立てないという事でもある。
 そこにこそ己の価値を見出し、そうする事で立ち直り、そのために生
きてきた自分にとって、安息の地を奪われたような気分だった。
 もっとも、今はカオルとナギサ、それにミサキという3人の子供達が
私を必要としてくれるだろうし、私がいる事そのものがシンジにとって
重要だともわかっているから、だから私は私のままでいられる。
 ああ、一人じゃないんだな。そう思うと、笑みがもれた。
 出来ることはないかも知れないけど、ここにいてもいいのね。
 ここにいたいから、ここにいてもいいのね。


 その声は確かに聞こえた。深く、深くから聞こえる声。絶大なる威厳
と力を秘めた、絶対なる声。今も、聞こえてくる。目覚めよ、解放され
よ、神の怒りをここに示せよと。
 わかっている。
 私はあのとき力を解き放った。
 あの力。全てを滅ぼすか、あるいは全て滅ぼされるまで無限に続く、
あの力。
 人として生きるには不要なもの。
 そう……不要なもの。


 街……人が地上に作り出した偽りの楽園。
 今日も第3新東京市のネオンサインはまばゆく輝き、世界を覆う苦難
を人の目から遠ざけている。
 自己欺瞞。
 たとえそうであってもそこに住む人間は幸福であり、が故に人はその
偽りの楽園にすがろうとしてきた。
 だが、その偽りの楽園を持ってしても隠せぬ絶望が、やってくる。
 そうなったとき、幸福に浸りきった人々は、その苦難に耐えられるの
か。
 ……私が今更心配する事ではないな。
 自嘲気味に冬月は顔を歪め、眼下に広がる明りから目を背けた。


 綾波レイを招聘してのE+計画。奴らに対抗するためのもっとも有効
な手段。
 諸刃の剣を作る事。
 新たな堕天使にすがること。
 更なる罪を犯す事。
『E細胞をベースに、A細胞のコントロールまでを行なえば、エヴァン
ゲリオンにはない力有る存在を作る事は可能よ。ただし、それが人類に
仇なすものになる可能性も十分にある』
「わかってるわ。でも、やらなきゃいけないの。それが私が戦う唯一の
手段だもの」
 戦う、か。
 何のために?
 いつの間にか好きになっていた、あの子達のために。
 あの子達が必死で守ろうとしている未来のために。
 それから、あの人との未来のために。
 強くなったと、良くいわれる。
 昔よりずっと強くなったと、それでいて柔らかくなったと。
 きっかけは悲劇だった。でも、時間はそれを癒し、私は変わった。
『まだ血塗られた道を歩き続けるのね?』
「ええ。それが私の宿命だと思うから」


「お帰りなさい!」
 嬉しさ一杯の声が家に響きわたった。
 子供達は今日も元気だった。
 アベルのことは、少しだけ嘘のオブラートに包んで話した。
 シンジの優しい語り口はそれを凄く大切な物語に感じさせ、子供達も
その説明を受け入れた。きっとお兄ちゃんは帰って来るよね、と微笑む
子供達に、ああ、とシンジは答えた。
 それから2週間。アベルのいない生活は、緊迫した大人達の空気とそ
れを和らげる子供達の空気で構成されていた。
「ねえ、パパ。遊ぼうよ!」
 まとわりつく3人の子供の相手をしながら、シンジの顔には笑みが絶
えない。
 守られてるのは、どちらなのだか。
 ふとそんな疑問が湧くほど、今のシンジは強かった。
「御飯よ」
 アスカの声がして、はーいといい返事がして、ちょうど帰って来たレ
イも交えて、だんらんの時間はやってきた。


「シンクロ率、だいぶ良くなってるわ。3人ともね。頑張ってるじゃな
い」
 リツコの優しい言葉。
 当然だ。そうしないと俺はアベルに顔向けできない。
 せっかく知り合った仲間を守れるから。私の技が役に立つから。
 みんなの夢が壊れるもの。私の大好きなたくさんのことが壊れるもの。
 3人の適格者達はそれぞれに自らの理由を思った。
「……アベルの域まで、どれぐらいかかる?」
 アンディが忌々しげにつぶやいた。
 リツコはため息をついて、
「まだまだね。……あと30ポイントは足りないわ」
「ちっ……80%ってのは遠いってわけだ」
 それも、あいつの場合は平均。俺の場合は最高で、ときてる。
「そんなに気を張ることはないわよ。もっとリラックスしなきゃ」
 メイロンのその余裕は見につけた格闘技術ゆえだろうか。
 実際、近接戦となれば彼女が一番頼りになる。
「……私達には私達のやりかたがあるんだもの」
 アンディの瞳を覗き込むようにして。アカリは言った。
 その瞳は綺麗で、アンディは思わず視線を外さずにいられなかった。
「……とにかく、今はシンクロ率を上げるぐらいしかできねえからな」
 気恥ずかしさをごまかすのにそんな強がりを吐きながら。
 戦場には、血塗られた土地には似つかぬ淡い想いを抱きながら。

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