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第15章「子供たちのために歌おう」

 ……君は?

 みんなは アベルって僕達を呼んでる

 ……アベル。

 そう アベル

 君の、君達じゃなく君の名前は?

 わからない 僕達みんなで アベル

 ここは?

 カインの中

 カイン……エヴァにそっくりなあれだね。

 エヴァ  そうだね、カインにそっくりだ

 ここで、何をしているの?

 カインを動かしてるんだ

 誰のために? 何のために?

 わからない ただ 壊せっていってる あの人達 壊せっていってる

 あの人達?

 僕に優しくしてくれる人達 でも ……

 僕は、シンジ。

 シンジじゃない 別の 優しくしてくれる人達

 その、あの人達が、君に、壊せって言ってるんだ。

 そう 僕が壊すと ほめてくれるんだ 

    だから あの人達にほめてもらいたくて 壊すんだ 

    でも 今度は ほめてくれなかった

「僕に、似ているね。アベルは」

 似てる? どうして?

「聞きたい?」

 うん。

「じゃあ、聞かせてあげよう。僕達と、エヴァのことを」

 それから、シンジは、長い話を始めた。

 シンジのこと

 母さんのこと

 レイのこと

 アスカのこと

 ミサトのこと

 リツコのこと

 加持のこと

 トウジのこと

 ケンスケのこと

 冬月のこと

 みんなの事

 それから、父さんのこと

 どうして?と尋ねられればその全てに優しく答え、

 なんで?と聞かれればシンジが思ったままに語った。

 それからどうなったの?

 10年前の、悲劇と始まりのことを話し終えると、

 アベルは無邪気な瞳をシンジに向け、尋ねた。

「とりあえず、これでおしまい」

 なんで?

「それからのことも僕は知ってるけど、話すわけにはいかないんだ。

 ぼくはそれから先は自分で道を選んだ。

 アベルも、これから先のことを選ばなきゃいけない。

 君達が選ぶのには、これからの話は、邪魔なんだ」

 そうなの?

「そうさ」

 いつか、話してくれる?

「いつかね」

 約束してくれる?

「うん」

 じゃあ、待ってる。

「待ってるだけじゃダメだ。先へ、進まなきゃ」

 どうすればいいの?

「どうすればいいかを、自分で決めるんだ」

 わかった。

 シンジ、決めたよ。

「どうするんだい?」

 本当は壊すの嫌いなんだ。いろんな人の嫌な声が聞こえてくるから。

 だから、もう、壊さない。

「じゃあ、続きを話してあげよう。僕の、僕達の選んだ続きを」

 再び、シンジは、話し始めた。

 今度は、10年間のいろいろなこと。

 レイとアスカのこと

 自分のこと

 父さんのこと

 母さんのこと

 ミサトのこと

 リツコのこと

 冬月のこと

 トウジのこと

 ケンスケのこと

 みんなのこと

 NERVのこと

 いろいろなこと

 たくさんの、碇シンジと言う人間に関わった全ての事

 シンジの知っている全て

 長い長い間、シンジは歌うように話をした。

 アベルのために、歌うように話をした。

 それから?

「ここに、来た。後は、君と話をしている」

 続きは、ないの?

「これから、作るんだ。これからね」

 じゃあ、いつまでもここにはいられないの?

「そう……だね」

 さびしくなるね。

 どうすればいい?

「自分で決めるんじゃなかったの?」

 ああ、そうか。そうだね。

 うーん。

 うん、決めた。シンジと一緒に行っていい?

「かまわないさ。でも、カインは?」

 カインは、もう動けなくなるんだ。

 でも、僕に行けって言ってる。

 僕に、行った方がいいって言ってる

「だったら、かまわない。

 でも、行く前に、ありがとうって、言っておかなきゃ」

 ありがとう……感謝の言葉の事?

「そうさ」

 うん。

 カイン、ありがとう。

 これでいい?

シンジは、黙ってうなずいた。

 カインが、帰り道を案内してくれるって

 ついてきて、シンジ


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