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第4章 序章、かつての日常

 久しぶりに3人で食べる夕食。
 大抵シンジの家で食べる時が一番美味しかった。
 レイの場合は無難な味なのだが、ときどき「凄い」ものが出てきたりも
した。
 アスカの場合は……焼肉やら、鍋物やら、いつもそんな感じであった。
 今日の夕飯は、レイが作るという。
 彼女が準備をする間に、アスカはお風呂に入り、シンジはアスカの分の
カードキーを作る手続きと持ち帰った仕事の処理をしていた。
 コトコトと鍋の中身の煮える軽快な音。
 いい匂いが、リビングにまで広がる。
 相変わらずラフな姿のアスカ。
 ソファーの上で、アグラなぞかきながら、テレビを見ている。
「夕飯、できたわよ」
 シンジを呼ぶレイの声がする。
「わかった」
 穏やかなシンジの声。パタパタと廊下を歩いて来る音。
 レイはもの言わず料理をダイニングキッチンのテーブルの上に並べた。
 湯気を立てる味噌汁と御飯。メインのおかずはカキフライ。
 3人が揃うと、誰からともなく、いただきます、と声を出し、談笑を交
えながら夕飯が始まった。アスカは始めてみた、レイの主婦としてのよく
似合っているエプロン姿を茶化し、恥ずかしそうに軽く言い返す妻の姿を
見てシンジが微笑む。
 もう一度3人の生活が始まることを予感させる、かつてによく似た日常。
「ところでアスカは、3年間、何をしてたの?」
 レイが、ふと、口にした。
「ええっとねえ……国際公務員。ニューヨークの国連統一国家準備委員会
の調査院にいたんだ」
「確かあそこは調査院を全面解散したって聞いたけど」
「ええ、第1次報告を出したからね。調査の公正のために全員入れ換える
んだって。で、あたしはそこのコネでここの大学の講師の仕事を貰ったん
だ。ところでさ、シンジとレイは何やってんの?」
「私は、まだ学生。大学院で応用生物工学をやってるわ」
 レイが答える。シンジより帰りが遅くなったのも、実験のせいだと言う。
「朝だって、私の方が早いことが多いもの」
 レイにとって、シンジは随分手間のかかる旦那様のようだ。
「俺は、国連第2次復興機関で、研究と事務との両方。まあ、いいかげん
にやってるけどね。あそこも人手も足りないし、上からの指示も曖昧だし、
まだ設立されたばっかりで、準備中って所だね。やってることはそうは学
生と変わらない」
「ふん。ってことはやっぱり社会じゃ、私が一番先輩ってことね」
「そうやって、すぐに自分の立場、上げようとするのね」
 微笑みながら、レイが言う。
「ちっとも変わってない」
 シンジが、これも微笑んで。
 その微笑みがここにいる二人の女性の心臓を高鳴らせる力を有している
ことに、気付いているのかいないのか。
 頬が染まってくる感じが、もっとアスカの頬を染めた。
「そうね……昔の、まんまね」
 あなた達が、結婚したことと、それぞれの立場さえ、除けば。
 少し淋しい気持ちになって、しかし久々のだんらんに身をまかせて、ア
スカはカキフライを一つ、口に運ぶと、次の質問を放った。
「ねえ、二人とも、子供はいつごろつくるつもり?」
 ぶほっ。
 シンジが、御飯粒を吹き出した。
 レイの白い顔が、真っ赤に染まった。
「な、なに言うんだよアスカ、こんなときに」
 レイはそれにうなずいて同意する。胸に手を当てて息を抑えている所を
見ると、だいぶびっくりしたらしい。
「なによ、考えてないとでも言うわけ?」
「そ……そういうわけじゃないけど。……取り敢えず、レイが卒業してか
らだよ」
「ふーん。……じゃあその前に私がシンジの子供、つくっちゃおうかなぁ」
「私は構わないわよ」
 少し落ち着いたのか、余裕をもった笑みを浮かべて、レイがあっさりと
答えた。
 予想通りの返事。3年間逃げていたわたしを、勝手にルールを破った私
を、受け入れてくれる、家族以上の優しい二人。
 慌てて頬ばった、カキフライの味は、良く分からなくなっていた。

 3つ目のベッドルーム、アスカのための部屋。
 新婚の二人が最初からこの家につくっておいた、私のための部屋
 3年前よりも少しだけ親密な生活。夫婦生活ではなく、3人の生活を送
ってくれると言う二人。
 素直に、ありがとうと言ったら、ちょっとびっくりされた。
 そんなの、当然だよって、シンジが言って、
 だって、私達だものと、レイが言う。
 悪いのは、私なのに。二人は笑って許してくれた。
 私がいない間に深まった二人の中を裂くような気がして、辛かった。
 二人きりの3年間に割り込んで、私は何をしているんだろう。
 3年前の、ダイレクトメール。
 どうして、あんな誘いに乗ったんだろう。
 怖かったんだ。
 シンジの優しさにただ包まれて、その温もりの中だけで暮らすのが、悪
いことのような気がして、逃げ出したんだ。
 明日は、ヒカリを呼ぼうって、シンジが言ってた。久しぶりに会う親友。
「優しい」恋人は、一緒だろうか。
 そんな風にすべてを思いで話とともに語れるなら、どれだけよかったか。
 改めて思った。
 エヴァは、人に与えられた、ナイフなのだと。


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