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全知無能


 彼は突然、何かに憑かれたような顔をする。
 そうして、陶酔の極みといった風情で云う。
「この瞬間、私は全てを知ったよ。
 今や私はありとあらゆる全てを知っている。
 君の体重が何ミリグラムなのだとか、
 あるいは世界がいつどうやって滅びるのだとか、はたまたこの瞬間に私の血液の細胞の一つ一つがどのように動いているのだとか――とにかく、私はありとあらゆる事を知っている。
 だがしかし、私は非常に残念なことも知っているのだ。
 私が私の全知について述べることができるのは、この一度きりだということを、だ。
 だが――それでも私は全てを知っている」
 それから彼は、にたり、とか、にやり、といったたぐいの笑いを浮かべ、返事を待つ。さも、「知っているよ」と言いたげな顔で。