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In 30 days ; Case4 : Gendoh

 10年前の悪夢の再来?
 馬鹿な。
 何故今更そんなものを悪夢と思わねばならない。
 私は、あれをとうに捨てたのだ。

「碇。いいのか?」
 今日も相変わらずの激務。
 そんななか、ふと傍らの冬月がつぶやいた。
「息子が、……取り込まれたんだぞ」
「だからと言って、私に何ができる? 赤木博士に任せておくのが妥当
だろう。それよりも、我々にはやらねばならんことがある」
「そうか」
 何も語らぬ暗い瞳から冬月は視線を外し、小さな小さな、本当に小さ
なため息をついた。

 結局、私は激務で全てを忘れようとしているだけではないのか?
 久しぶりに戻った自室のベッドの上で、ゲンドウは上着を脱ぎながら
思った。
 何もない部屋。
 生活感の、まるでない、無機的なこと極まりない空間。
 10年前から殆ど変化のない、時の止まったままの部屋。
 いや、違うな。20年前の私の部屋と一緒だ。
 眉一つ動かさぬまま、ゲンドウは内心で自らに対し嘲笑を浮かべた。
 結局、ユイのいなかったあの頃に自らを閉じ込めたいだけなのかもし
れない。
 ならば、何故シンジを呼んだ?
 必要だったから。私の計画とユイがシンジを必要としたから。
 何故レイを存在させておく?
 必要だから私の計画が必要としているから。
 計画?
 手段のために計画を選んでいるのではなく?
 どちらでも構わないではないか。ただ、私は自分の計画通りに事を進
めていればいいのだ。

「以前のデータがありますから、サルベージ計画そのものの実行は可能
です。確率は……」
 サルベージ可能。
 その一言を聞いたとき、何故かゲンドウは安堵を覚えた。
 全体の計画の見通しが立ったという安堵感とは別の安堵感。
 嬉しい? シンジが戻って来るのが?
 計画の駒としてではなく?
 そんな感情は捨てたのではなかったのか?
 自問しながら、ゲンドウは自分の弱さを思い出していた。
 情が邪魔になるからと切り捨てたシンジ。
 なのにパイロットとして準備しただけのレイに情を持ち、そして今ま
た駒として呼んだはずのシンジに情を持ち始めている。呆れるほど、弱
い自分。
 だだをこねているのはもしかしたら自分なのかもしれない。
 そんな考えに行きついたが、自らの定めた道を理由に、ゲンドウはそ
れ以上考えるのを止めた。
 否、それを道だと思いたかったのやもしれぬ。
 とにかく、既に考えるのを止めたゲンドウにそれ以上の疑問は産まれ
なかった。悩む事から、逃げ出したから。
 己が息子から、逃げ出したから。

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