そんなふうに膝を抱えるミサトを癒す言葉を、加持は持たなかった。
今必要なのは俺の与える温もりじゃない。
シンジ君が――葛城が守るべき存在がそこにあると言う事実だけ。
もし彼が戻らなかったら?
自らを捕らえた彼女の檻を俺は壊せるのか?
自信はなかった。
与えれば与えた温もりの分だけ更なる温もりを求める彼女。
その心の最初の隙間を埋めてやれる力を俺は持ち合わせていない。
だから、今は包んでやるだけだ。
彼女が膝を抱えて泣くあいだ、誰も彼女を傷つけに来ないように。
家には帰りたくない。
シンジくんの匂いがするから。
シンジくんと一緒に過ごした時間が
そこに留まっているような気がするから。
シンジくんのこと、忘れたい。そうすれば苦しくない。
シンジくんのこと、忘れたくない。大切な家族。
わからない。
泣こう。
忘れられないのなら。
泣いて気が紛れるのなら、
この苦しみが和らぐのなら、
全身の水気が抜けきってカラカラに乾くまで、
泣こう。