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たぶん直接にはVidさんの「〈ゲーム開発キット〉としてのTRPG」に対する疑問を読んでの反応なのだけれど、わざわざ一般化させてみたために話としては少しずれているのでまあそんな感じで。あるいは例によって冬のGameDeepの予稿になるような気もする。あと俺はいいかげんSituated Playについてちゃんと論文を読むといいと思います。
ゲームを成立させるには、参加者に「ゲームをする」という意識が必要となる。
具体的には、ゲームルールに従うこと、ルールが示すところの目標へ向かうこと、といったあたりを各プレイヤーが了解していないと、ゲームがゲームとして成立しない。たとえば、単にサイコロ振るのが楽しいからサイコロ振る回数を増やすためだけに行動するプレイヤーがいると、ゲームはそれで壊れてしまう。(壊れた結果のそれもまたゲームなのだが、その話を始めると別の泥沼に突入していくので回避する)。
_ところがTRPGでは、この構図が崩れる。普通のゲームであればルールが目標を明示するが、TRPGでは明示されない。これに対し、「目標はプレイ開始後にGMからシナリオの中で提示されるのだ」などと言ってもいいが、それは正確ではない。
なぜなら、目標は事前に定められているからだ。
TRPGはひとりでする遊びではない。誰かと共に遊ぶものだ。だから、プレイヤーはTRPGを遊ぼうとする時点で既に選択を終えている:「TRPGを遊ぶのだ」という意志を固めている。だから、TRPGを始めようとするその時点で、プレイヤーは「TRPGをする」という目標を――あるいは、「TRPGをする」という了解をもっているはずなのだ。
そんなの普通のゲームも同じじゃないか、という反論が出そうだが、しかし違う。その了解の仕方、あるいは了解の扱われ方が違うからだ。
_普通のゲームであれば了解に基づいてルールを運用していけばそれで十分進行する。了解と局面が矛盾してしまったとき(「もうどうやっても勝てない」ときなど)にどうするか、等の問題がときどき起きるが、普通のゲームにおいてはそこで了解を曲げることもルールを曲げることもあまり許容されない。
始めてみたら実は了解が食い違っていた、なんてこともあるかもしれない。典型的なのは、「楽しみのために遊ぶ」のかはたまた「真剣勝負がしたい」のか、というあたりだろうか。だがこういうときも、最悪粛々とルールにさえ従えばゲームそのものは成立する。
_しかしTRPGには究極的に従うべき絶対的な規範がない。もちろんルールブックには「困ったらGMの判断に従うこと」などと書いてあるのだが、しかしそこでGMに求められるのは「場の空気を読ん」だうえで適切な判断を下すことだ。
TRPGを始めようとするとき、そこで遊ばれようとしているものはまだ不定形だ。事前の了解はまだ固まっておらず、だが「(TRPGで)遊ぼう」という了解だけは明確に存在している。だが、「楽しくやる」か「真剣に謎を解く」か、はたまた「GMの一人芝居を観る」かはまだ決まっていない。それが提案されるのはプレイが始まってGMが最初のシチュエーションを提示してからであり、そこに応じていくことでようやく了解が形成されていく。
やがて了解が形成されれば、それは「ゲーム」と呼んでもいいかもしれないぐらいのものになる、かもしれない。ルール+GMの提案+プレイヤーによる了解、をもってようやくそれはゲームとなる、という意味ではTRPGというのはまさしく「ゲーム作成キット」なのだと言える。
_ところでTRPGの了解はそんなものであるので、当然ながらプレイを通じて変化しうる。あるいは、そこが変化することをいいことにわざわざ合意を裏切るようなシナリオをGMが用意しておくこともできる。しかしあんまりやりすぎると「そういうことしかしないGM」と目されて、せっかくの仕掛けなのにプレイヤーが最初から構えておいて、とかいう事態に陥る。
そういうプレイを見ているうちに「いっそその部分をルール化しちまえばいいんじゃね?」とかいう無茶に踏み出したTRPGなんてのもあるんだがそのへんの話は待て次回(あるのか?)
おそらくこれに補論として「TRPGシステム開発の系譜を一行メモ形式で超大雑把に語る」みたいなのを付ければわかる人にはわかるものになるだろう、ということで続く(かもしれない)