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責任問題

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責任問題

ATS設置の義務化がなぜ馬鹿馬鹿しいのかという話をしていないと気付く。のでその話。

「新型ATS設置が運転再開の必要条件」「全国鉄道会社へのATS設置義務化」というふたつの話があるが、どっちにしても「鉄道システムというのは設備と人間によるシステムである」という観点がすっぱり欠けているのが問題だと思う。

_1、国土交通大臣の言った「新型ATS設置が運転再開の必要条件」というのがなぜナンセンスであるのかについて。

GW直前に事故が発生したからまだそんなに顕在化してないと思うが、鉄道を止めてしまうというのは大変なことである。現代社会においては鉄道網とは道路や水道や電気に匹敵するインフラだ。これが止まると、人によっては生活が成り立たない(比較的遠方からの鉄道通学者など)。今回の場合は阪急がバックアップ的な路線を持っているので折り返し運転と組み合わせればそれでいいではないか、という向きもあろうが、大都市圏においては需要をまかない切れない可能性があることは考えるべきであろう。

JR西日本が当初発言していた「早急な運転再開」とは、おそらく完全復旧前の事故代替ダイヤを組むことを意図しての発言であったろう。阪急での代行輸送、快速運転の取り止め、当該区間での単線運転、通常より遅い速度での余裕ある運行――などのソフト的な対策を考えられる限り盛り込む。鉄道屋の論理としては、そのようにしてまず運転を再開することがインフラ企業としての義務だと考えるだろうし、考えるべきだ。

たとえば大規模停電が起きたときにまず原因を完全に究明するよりは、一刻も早い復旧が求められるように、鉄道システムにおいても不完全であってもサービスを再開することが求められるはずである。そして、大都市近郊線というのは単に鉄道システムではなく、都市システムの一環であることも考慮されるべきだろう。

対して「新型ATS設置が運転再開の必要条件」というのは、極めてハード的な、かつわかりやすい「責任の取り方」を求める(日本の)政治的な発言だろう。しかしATSを更新したところでわかりやすい安堵感は得られても問題の本質はなんら改善されない(本当に必要なのは、システムの冗長性の確保であって、「ATSを付ければ安心」という話ではない)。まああれだ、大臣は自分じゃ鉄道なんて使わないからそのへんわからんのだろう。しかし東京の人間であれば「都営新宿線があるから中央線は止めてもOK」みたいなことを考えてみればいかに大臣の要求が無茶な発言であるかは容易にわかる。というか、とりあえずの運行再開においてソフト的対策が万全であるか監督するのも国土交通省の仕事なんだと思うのだがそのへんどうよ?

_2、全国鉄道会社へのATS設置義務化というナンセンス

策定されるという基準にもよると思うが、一日数本しか運行のない線区の急カーブとかにも設置を義務付けするのであれば、費用対効果の点から見てこの上ない愚策となるだろう(そしてこういう大臣提唱の施策の場合、そういう愚劣な方針が出来上がって来る可能性は高い)。ここでかかるコストは設置コストだけでなく、運用保守、車輌対応など長期的に考えれば爆発することを考慮するべきである。ただでさえ赤字でキュウキュウの路線に一律義務を課したならば、これを理由に廃線となる区間も多々発生するであろう。

もちろん国土交通省には安全な運行を確保するための監督指導をするという責務はあるが、ソフト的な対応で十分な線区についてはソフト的対応で済ます方が適切な対応策となる線区もあろう。それを鑑みず一律義務を課すとなれば、国土交通省の職務怠慢であると言ってもいい。

_まあ要するに、(そんなこと最初からわかっちゃいるが)国土交通相は鉄道システムのことや都市システムというものをちゃんと知っていればできるはずの基礎的判断も出来ていない、すなわち国土交通相として不適格であることが今回の事故にまつわるATS絡みの発言から推察できる。しかしマスコミの方もそれが正しく判断できない(あるいは局所的にできる奴はいてもそれを報道できない)ので、大臣の阿呆な発言を是正することもできず、かくてナンセンスな判断が大手を振ってまかりとおることになる。

_なんてことは2ちゃんの該当板にでも行けばすっかり考察されていて(匿名とは言え)専門性のある集団は強いなあなんて思うのだが。まあ、国土交通相の官僚も大臣ほど馬鹿でも無知でもないだろうからきっと戦略レベルの決定を無効化すべく戦術レベルでひたすら骨抜きにすべく立ち回るのであろう。それって骨抜き化の行き過ぎの結果として更に危険なシステムが産まれるというありがちな典型の発端なのだが、この際気にするべきではない。っていうか、なんか書いててどんどん絶望的な気分になってくるのは気のせいか。

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